テクニカル分析を極める

NO.03

▷ ダウ理論

この理論についてはすぐれた著作も多く、本稿で改めて述べることもないのかもしれないが、歴史的に見てはしめて需給関係に注目した、アメリカのテクニカル分析の先駆けとも呼べるものであり、やはり簡単には触れておく必要があろう。

ダウ理論は純粋なテクニカル分析の理論であるが、意外にそう捉えていない向きも多い。もともとは株式市場の予測が目的だったのではなく、景気動向のバロメーターとして発案されたものと考えられる。

チャールズ・H・ダウの没後、ダウ理論と名付けられた彼の原理は『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙に書いた論説が基になっており、後にウィリアム・P・ハミルトンやR・レアなどが発展させたものである。

ダウは平均株価の概念を導入した最初の人であるが、ダウ理論で用いるのは、二つの平均株価(工業株平均・運輸株平均)の終値べースである。ザラ場は取っていない。ザラ場は操作がしやすく、騙しが多くなるという理由からである。

ダウ理論の考え方で、平均株価の概念とともに重要なことは、いったん始まったトレンドは反転が証明されるまで継続するということであろう。

 

さて、ダウ理論は、以下のようにまとめることができよう。

①平均株価は、市場参加者すべての活動を反映する。不可抗力の自然災害ですら、すぐに織込む(この考えは、日本のテクニカル分析と同じものであり、洋の東西を間わず、テクニカル分析の基本的発想である)。

②相場には三つの波動(トレンド)がある。長期トレンド(Major or primary trend.主要波動)、訂正トレンド(Secondarytrend.ニ次波動)、短期トレンド(Minor trend)である。また、短期トレンドより小さい動きとして、日々の変動(Daily fluctuation)がある。長期トレンドは一年以上数年にわたる。こと、ダウ理論に関しては、ブル相場あるいはベア相場という表現は、長期トレンドについてのみいうのがふさわしいとする。当然、最も重要なトレンドである訂正トレンドは三週間から数ヶ月続く。一般には、価格にして長期トレンドのほぼ三分の一から三分の二の反動となる。通常は、二分の一の訂正に終わるとする。ダウ理論にとって、一番困難なのが、この訂正トレンドの認識である。短期トレンドや日々の変動での予測は間違いが生じやすく、特に長期投資家にとっては意味が薄い。

③ライン(ボックス。平均株価の変動が五%以内の保合)はアキュミュレーン(Accumulation.買い集め)か、ディストリビューションDistribution.売り抜け)が密かに行われている状態で、長期トレンドの第一段階である。訂正トレンドの代りにラインができることもある。むしろ、長期トレンドの第一段階であるよりも、中段保合で、元のトレンドに戻ることのほうが多いともいう。
④出来高は、株価が長期トレンドの方向に動くにつれて、増大する傾向にある。訂正トレンドにあっても、同様のことが見られる場合がある。

⑤ピークとボトムが連続して右上がりとなる時は強気であり、連続して右下がりとなる時は弱気である。

⑥ 一種の株価平均では誤りに陥りやすいという観点から、二つのダウ平均による確認が必要である。工業株平均と運輸株平均で同じシグナルが出てはじめて前記⑤が活用できるとする。平均株価の他方で確認が取れない場合、何のシグナルもなかったのと同じこととなる(確認の失敗)。

長期トレンドの反転は二つの平均がともに反転を示したときにしか起こらない。逆に、いったんトレンドが確認されれば、過去に拘泥せず、ついていかざるを得ないとする。

二つのダウ平均に工業株平均と運輸株平均を用いる理由は、本当に健全な経済状態であるなら、この二つはともに買われるはずだとの見方による。物流が活発になって在庫が掃ければ、本格的な生産活動にはいりやすいということだろう。だだし、運輸株は、昔は鉄道株であったものが時代とともに変更されたもので(当時、鉄道は代表的企業であったため、二つの平均の一つに選ばれたという意見もある)、工業株平均自体の銘柄選定も徴妙な間題を含んでいる。

ダウ理論では、工業株平均と運輸株平均のシグナルが期間的に近いほど、そのシグナルは強いという。しかし、工業株平均と運輸株平均のシグナルの有効な期間については言及していない。また、ダウ理論ではトレンドそのものの期間についても予測できない。シグナルが遅すぎるという批判もある。

ダウ平均は単純平均株価とは違うことも忘れてはならない。(ダウ平均のマジックと呼ばれる現象がそれでありエリオット波動論〈後述〉においてもエリオッツトはそれを斟酌して考察していた可能性もある)

ダウ理論は、以上のような欠点がある。詰まるところ解釈の間題であり、体系だって運用することが重要なのであろう。さて、以上がダウ理論の概略である。これを外国為替市場に当てはめて考えると、どうであろうか。

私見では、外国為替相場にあっては、アキュミュレーションもディストリビューションも、お互いの裏返しにすぎなく、売りも買いも同じことであり、あまり考えなくてよいと推量する。アキュミュレーションはディストリビューションでもあるわけだ。

外国為替相場の特徴のひとつに、どんなに下落した後でも実需の売りはあり、どんなに上昇した後でも実需の買いは残るということがある。(この点で株式相場などと若干の相違があり、商品相場に近いのかもしれない)従って、下方でのラインの形成は、たとえ株式相場では底練りと見られるようなパターンであっても外国為替相場では中段保合となることもあり注意が必要である。

出来高に関しては、ダウ理論でも、決定的な条件とは見ていない。外国為替相場でも、出来高の把握が困難という理由もあり、あくまで参考程度にとどめておくべきであろう。

ダウ理論は基本原則として大部分の株式は一緒に動くということに注目したものである。外国為替相場にあっても、ドル対他通貨という見方が可能であろう。円も対ドルでは同じような動きとなる場合が多いことを考慮に入れるべきだと考える。もちろん、超短期的あるいは長期的には、これらの通貨の描く軌跡は同じではないが、中期的には、全く掛け離れた動きをするわけでもない。例えばドル円でドル売りのシグナルを認識した時に、他通貨ではどうかを確認することは無駄ではあるまい。

 


林康史DVD

▼ 林康史プロフィール

林 康史(はやし・やすし)

立正大学経済学部教授/法学修士。

主な担当分野

【学部】金融論、国際金融論、証券論、中国金融。

【大学院】金融特論、金融特殊研究。

 

大阪生まれ。大阪大学法学部卒。法学修士(東京大学)。クボタ、住友生命保険、大和証券投資信託、あおぞら銀行(職務経験は、輸出営業、原価管理、為替ディーラー、エコノミスト、ストラテジスト等)を経て、2005年から現職。華東師範大学(客員教授)、一橋大学(非常勤講師)、日本学生支援機構 機関保証制度検証委員会(委員長)等。その他、評論活動等。

 

主な著書・訳書
『株式投資 第4版』『基礎から学ぶデイトレード』(監訳)『マネーの公理』(監訳)以上、日経BP社、『決定版 株価・為替が読めるチャート分析』『ジム・ロジャーズ中国の時代』(共訳)『人生と投資で成功するために娘に贈る12の言葉』(監訳)『欲望と幻想のドル』(監訳)以上、日本経済新聞出版社、『欲望と幻想の市場』(訳)『相場のこころ』(訳)以上、東洋経済新報社、他。DVDに、『テクニカル分析を極める短期集中講座』(全4巻=8本)『相場で勝つための心理学』『解説!デイトレード 第1巻』『BS―JAPAN 相場の心理学(上・下)』、他。

 

現在の研究テーマ

(1)金融システム・金融法

(2)マーケットストラクチャー・価格形成メカニズム

(3)行動ファイナンス

(4)パーソナルファイナンス

(5)金融教育

(6)ドル化

(7)貨幣論・地域通貨

(8)マイクロファイナンス

(9)商品論

(10)石橋湛山

 

主な研究実績
(1)共著(木下直俊・林康史)

「“ドル化”国の中央銀行の役割と政策」全国銀行協会『金融』(第800号)2013年11月

(2)共著(林康史・木下直俊)

「ドル化政策実施国における金融政策―エクアドル・エルサルバドル・パナマの事例―」『経済学季報』(第64巻第1号)2014年7月

(3)共著(林康史・歌代哲也・木下直俊)

「エクアドル・エルサルバドルの補完通貨UDIS」『経済学季報』(第64巻第2・3号)2015年1月

(4)共著(林康史・劉振楠)

「グラミン銀行とマイクロファイナンスのコンセプト―奨学金制度のビジョン再検討のために―」『経済学季報』(第64巻第4号)2015年3月

(5)共著(畠山久志・林康史・歌代哲也)

「外国為替証拠金取引規制―わが国におけるFX取引の沿革と現状―」『経済学季報』(第65巻第1、2、3・4号)2015年8月、11月、2016年3月

(6)単著

「貨幣とは何か」『貨幣と通貨の法文化』第11章、国際書院 2016年9月

(7)共著(潘福平・林康史)

「人民元の為替相場制度の変遷」『21世紀資本主義世界のフロンティア』第5章、立正大学経済研究所研究叢書31巻 2017年3月

(8)単著

「経営とガバナンスから見た食の安全―日本・中国・韓国の比較―」『経済学季報』(第67巻第2・3号)2017年12月

(9)共著(木下直俊・林康史)

「オデブレヒト汚職事件と中南米諸国への影響」『経済学季報』(第67巻第4号)2017年3月

(10)共著(歌代哲也・林康史)「ベネズエラの共有通貨Panal」『経済学季報』(第67巻第4号)2017年3月

 

所属学会

日本金融学会、金融法学会、法と経済学会、法文化学会、行動経済学会、FP学会