テクニカル分析を極める

NO.01

▷ 移動平均

1.「ラリー・ウィリアムズの相場で儲ける法」より

本書には、これまでの常識を覆すことが満載されている。そのほんの一部、移動平均の箇所の抄訳を掲載して紹介したい。

私見では、一般的な移動平均は使えない技法である。タイム・サイクルの視点が欠如しているからだ。例えば、0円から1日1円ずつ上がり10日で10円に達し、また、10日かけて0円にまで下がることを繰り返す相場があるとする。この相場で20日に移動平均と11日の移動平均のクロスで売買するとどうなるのだろうか。ここでは解説は省略するが、答えは「破産」である。

ラリーはコンピューターを使い膨大なデーター処理を行うことで、移動平均の欺瞞性を提示する。以下、第3章「移動平均は役に立つのか」の一部をかいつまんで紹介したい。

私が相場で勝つ手法を見つけようとして最初に出会ったテクニカル分析は移動平均であった。移動平均による技法は、まず例外なく単数または複数の移動平均を実際の価格が越えた時が買いで、逆に価格が単数または複数の移動平均をクロスして下回った時が売りだとする。初めは、移動平均は相場で最も有効な指標だと思えるだろう。結局、すべての移動平均のサインを取り入れることができれば、相場の大きな動きに何回かは乗ることができるだろう。

テクニカル・アナリストは、自説の正しさを証明するのに、通常、値動きの激しかった株や商品のチャートを用意し、移動平均のクロスが取引の際に有効だと示して、将来においても有効であることを示そうとする。


2. 移動平均の改良

移動平均の考え方には2つの重要な改良が加わる。その一方はディック・ドンキアンが提唱したものである。彼は一種類の移動平均に頼っているだけではだめだといった。移動平均は複数組合わせて使ってこそ意味があるというのだ。そこで、彼は5日移動平均および20日または25日移動平均を併用する手法を考案した。1940年代後半と1950年代初めに、私の知る限りでは多くの人が、このドンキアンの説に従った。

彼らは基本的にこう考えている。移動平均は単独では相場のトレンドを予測するのに不十分であって、期間の異なる2つの移動平均が必要である。一方は期間の短い、動きの素早い移動平均である。そしてもう一方は、期間を長くとったもの。普通、その運用ルールは、二種の移動平均が揃って上昇傾向にある時、また日々の終値が両方の移動平均を上回っている時に買いシグナルを示す、というものである。

相場の大きな動きを的確に判断するために、このような移動平均を2つ、あるいは時には3つも組み合わせて利用する例が多数見られる。

数学的なアプローチを重んじて施されたさらなる改良は、指数関数や多重移動平均である。私はこれらの考え方について詳しく説明する気はない。というのも、後に説明するが単純な移動平均と、指数関数あるいは加重移動平均といったものとの間にはそれほど違いが見出せないからだ。

何年も前に、私はカリフォルニア州のコンピューター会社MJKアソシェイツで、ある移動平均の変化率と指数平均を比較する研究を行った。その結果は、1つの例外もなく移動平均に対する指数の援用は意味がないというものだった。実際、多くの場合、移動平均は高度な指数平均や線形加重移動平均、さらに直近データ重視の加重移動平均よりも市場に素早く対応したものだ。もし直近のデータに比重をかけるのなら、私ならおそらく移動平均ではなくオシレーターを用いる。

株式市場についてはまさに詳細を検討する必要はない。1950年代初めにシカゴ大学が実施した研究では、その種類を問わず、売買シグナルとしての移動平均の単純なクロスは利益を生まないことが証明された。


3. 移動平均のバンド

ラリーは、1969年に、「ウィリアムズ・レポート」の中で移動平均を異なる視点から捉えた研究結果を発表〉

そこでは、実際の価格が移動平均をクロスすることのみが重要なのではなく、移動平均の両側にゾーンを設けて、これが重要だとした。つまり、株価の終値が移動平均よりも1%高い場合、移動平均よりもわずかに上回って引けた時よりも買い時なのか、また2%近くまで上昇した場合にはさらに強力な買いシグナルなのか、ということを証明したかったのだ。このため、私は移動平均の両側に緩衝帯を設け、このことで単純な移動平均システムが改良されうるかを観察したのだった。

これらのデータに関してはシカゴ大学の研究から、いくら移動平均の周囲にうまく価格がブレイクする緩衝ゾーンを設けたところで利益を生まないことが明らかになった。

それにもかかわらず、ここ何年もの間、世間では移動平均崇拝が続き、投資顧問会社も移動平均とそのクロスに基づく間違ったサービスを提供し続け、ついにはビジネスをたたむことになった〈彼は儲かるシステムを見出したと考え、有頂天となる〉


4. 最適化と検証

ラリーは、1969年に、「ウィリアムズ・レポート」の中で移動平均を異なる視点から捉えた研究結果を発表〉

そこでは、実際の価格が移動平均をクロスすることのみが重要なのではなく、移動平均の両側にゾーンを設けて、これが重要だとした。つまり、株価の終値が移動平均よりも1%高い場合、移動平均よりもわずかに上回って引けた時よりも買い時なのか、また2%近くまで上昇した場合にはさらに強力な買いシグナルなのか、ということを証明したかったのだ。このため、私は移動平均の両側に緩衝帯を設け、このことで単純な移動平均システムが改良されうるかを観察したのだった。

これらのデータに関してはシカゴ大学の研究から、いくら移動平均の周囲にうまく価格がブレイクする緩衝ゾーンを設けたところで利益を生まないことが明らかになった。

それにもかかわらず、ここ何年もの間、世間では移動平均崇拝が続き、投資顧問会社も移動平均とそのクロスに基づく間違ったサービスを提供し続け、ついにはビジネスをたたむことになった〈彼は儲かるシステムを見出したと考え、有頂天となる〉


5. 2つの移動平均のクロス

テクニカル・アナリストがよく活用する方法として、1つの移動平均だけでなく、複数のそれを併用するというものがある。これは2つの期間の移動平均がクロスする時、1つの移動平均を用いた時よりもさらにトレンドを確定しやすいという考え方に基づいている。以下の表では、メリル・リンチの研究で最適とされた移動平均の組合わせを表している。例えば、銀の場合、3日の移動平均が26日の移動平均を下からクロスした場合に買いシグバルが出るということだ。

2つの移動平均を併用するアプローチもトレンドの将来予測では機能しないということがわかった。将来においても2つの移動平均を併用するアプローチに従えばほぼ確実に利益をあげることができると考えるのももっともだ。しかし実際は、ご覧の通りだ。将来に当てはめた場合、確実だったのは手数料ぐらいのものだ。期待した利益は実現されなかったのだ。

私がこれまで書いてきたことの真意は、ある分析結果はそのまま将来に適用して機能するわけではない、ということを示すことにあった。特にそれが必要以上に最適化されている場合には。

一般的にいって、トレンドを追求するアプローチでは過去に機能したものは将来においては機能しないのだ。この点についてこれ以上議論するつもりはないけれど、何しろ移動平均については極めてよく言及されており、先物相場の初心者の多くがこのアプローチに取り憑かれることは問題だと思う。

初心者にとって先物相場における移動平均がまるで信頼に足る確実なアプローチであるかのように思えるものとして選別され、その結果が後づけで示されるのだ。実際は違う。これらは分析手法にすぎない。人によっては、移動平均をよりよい分析手法として利用することも可能だろう、しかし、パラメータを使って、確実にきっちりしたシステムを構築しようとは思わない方がよい。その成功例を今まで見たことがない。過去20年以上にわたって、私はさまざまな数値、システム、アプローチを見てきた。しかし、移動平均を用いたアプローチで一貫して利益をあげている者に出会ったことがない。

リサーチには2つの目的があることを再び想起してほしい。1つは何が有効かを示すこと、もう1つは何が機能しないかを示すことだ。他人のリサーチを評価する時には、そのデータを検討する前に、リサーチが前提とする仮説や理論が何かをまず検討しなければならない。その理論の妥当性である。

最適化がどれだけ相場で有効かを判断する最良の方法は、これまでに示したような方法だ。すなわち過去のデータを用いて検証し、それ以降の未知のデータを用いて将来どうなるかを検証してみることだ。もし、過去においてと同様に将来でも機能するなら、そのアプローチは大きな意味があろう。しかし、それが単に過去においてのみ有効だったとするならば、私はラスベガスでルーレットにでも賭けていた方が手数料を取られないだけましだと思う。


6. 移動平均線の期間

さて、移動平均はその期間が重要です。グランビルは日々線と200日線を用いましたが、その根拠については経験則というだけで明快な理由はありません。一般的に言えば、移動平均線の期間を短くすると日々線に対する感応度が高くなってシグナルが頻繁に出て、期間を長くとると騙しは減少するものの日々線に対するタイム・ラグが大きくなり(これが移動平均線の最大の欠点です)、トレンドは把握できても期待利益は少なくなることも多くなります。

ゴールデン・クロスとデッド・クロスも期間の設定を間違えば、高値掴みに底値売りという最悪のパターンとなる可能性もあることに留意しなければなりません。

具体的に、そのことを移動平均のモデルで示したいと思います。

0円から1日1円ずつ上がっていって10円に到達し、また0円まで下がるという相場を仮定します。いろいろな期間の移動平均を作ってみますと、図3のようになります。ここで、20日の移動平均線と11日の移動平均線のクロスで売買するというやり方をしてみます。11日線が20日線を下から上にクロスします。いわゆるゴールデン・クロスです。この時のマーケットは10円です。ということは10円で買います。次に、いつクロスするかというと、11日線が20日線を上から下に切っているところで、ここは実に0円です。つまり、このマーケットで、20日線と11日線のクロスで売買している人は、永遠に10円で買って0円で売る、つまり、最高値で買って最安値で売るということになります(もちろん、そんなことを続けていると破産するか、馘になりますから、永遠にというのは無理ですけれど)。期間を間違えるとそういうことが起こるのです。

しかし、日々線と4日線のゴールデン・クロスとデッド・クロスで売買すると、かなりのパフォーマンスです。結論を言いますと、ゴールデン・クロスとデッド・クロスでの売買は、期間が非常に重要であるということです。

しかし、もっと正確に述べますと、正しくは、主サイクル(移動平均線はトレンドを表すと言いましたけれども、20日線がこの相場のトレンドを精確に表しているわけです。これを主サイクル、主周期と言います)の移動平均線と、半サイクル(半周期)の期間を取った移動平均線との“ゴールデン・クロスで売り、デッド・クロスで買い”というのが一番正しいやり方だということになるわけです(“ゴールデン・クロスで買い、デッド・クロスで売り”ではありません)。一般的なテクニカル分析の解釈は間違っている可能性が大だということです。

もう一度、念頭においていただきたい。期間が間違っている移動平均線は意味がないばかりか、危険ですらあるのです。


林康史DVD

▼ 林康史プロフィール

林 康史(はやし・やすし)

立正大学経済学部教授/法学修士。

主な担当分野

【学部】金融論、国際金融論、証券論、中国金融。

【大学院】金融特論、金融特殊研究。

 

大阪生まれ。大阪大学法学部卒。法学修士(東京大学)。クボタ、住友生命保険、大和証券投資信託、あおぞら銀行(職務経験は、輸出営業、原価管理、為替ディーラー、エコノミスト、ストラテジスト等)を経て、2005年から現職。華東師範大学(客員教授)、一橋大学(非常勤講師)、日本学生支援機構 機関保証制度検証委員会(委員長)等。その他、評論活動等。

 

主な著書・訳書
『株式投資 第4版』『基礎から学ぶデイトレード』(監訳)『マネーの公理』(監訳)以上、日経BP社、『決定版 株価・為替が読めるチャート分析』『ジム・ロジャーズ中国の時代』(共訳)『人生と投資で成功するために娘に贈る12の言葉』(監訳)『欲望と幻想のドル』(監訳)以上、日本経済新聞出版社、『欲望と幻想の市場』(訳)『相場のこころ』(訳)以上、東洋経済新報社、他。DVDに、『テクニカル分析を極める短期集中講座』(全4巻=8本)『相場で勝つための心理学』『解説!デイトレード 第1巻』『BS―JAPAN 相場の心理学(上・下)』、他。

 

現在の研究テーマ

(1)金融システム・金融法

(2)マーケットストラクチャー・価格形成メカニズム

(3)行動ファイナンス

(4)パーソナルファイナンス

(5)金融教育

(6)ドル化

(7)貨幣論・地域通貨

(8)マイクロファイナンス

(9)商品論

(10)石橋湛山

 

主な研究実績
(1)共著(木下直俊・林康史)

「“ドル化”国の中央銀行の役割と政策」全国銀行協会『金融』(第800号)2013年11月

(2)共著(林康史・木下直俊)

「ドル化政策実施国における金融政策―エクアドル・エルサルバドル・パナマの事例―」『経済学季報』(第64巻第1号)2014年7月

(3)共著(林康史・歌代哲也・木下直俊)

「エクアドル・エルサルバドルの補完通貨UDIS」『経済学季報』(第64巻第2・3号)2015年1月

(4)共著(林康史・劉振楠)

「グラミン銀行とマイクロファイナンスのコンセプト―奨学金制度のビジョン再検討のために―」『経済学季報』(第64巻第4号)2015年3月

(5)共著(畠山久志・林康史・歌代哲也)

「外国為替証拠金取引規制―わが国におけるFX取引の沿革と現状―」『経済学季報』(第65巻第1、2、3・4号)2015年8月、11月、2016年3月

(6)単著

「貨幣とは何か」『貨幣と通貨の法文化』第11章、国際書院 2016年9月

(7)共著(潘福平・林康史)

「人民元の為替相場制度の変遷」『21世紀資本主義世界のフロンティア』第5章、立正大学経済研究所研究叢書31巻 2017年3月

(8)単著

「経営とガバナンスから見た食の安全―日本・中国・韓国の比較―」『経済学季報』(第67巻第2・3号)2017年12月

(9)共著(木下直俊・林康史)

「オデブレヒト汚職事件と中南米諸国への影響」『経済学季報』(第67巻第4号)2017年3月

(10)共著(歌代哲也・林康史)「ベネズエラの共有通貨Panal」『経済学季報』(第67巻第4号)2017年3月

 

所属学会

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