外国為替の相場予測

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「DVD 外国為替の相場予測」

テキストより

◆外国為替相場の変動要因

13)マサチューセッツ・アベニュー・モデ

MAMにおける財政赤字削減のケース

現在、景気がニュートラルな状況にある。政策当局は、長期戦略として財政赤字削減を望んでいるとしよう。財政赤字削減による公的需要の減少は景気を悪化させる。場合によっては、景気後退を引き起こすリスクもある。こうしたリセッション・リスクを軽減させるためには、ケース2の金融緩和、通貨安のポリシー・ミックスを採ることが望ましい。財政赤字の割減で景気に縮小圧力がかかれば市場金利が低下するし、それに反応して自国通貨にも下落圧力が働くだろう。金利低下は、国内の民間投資需要を刺数する。自国通貨安は、純輸出を増加させ国内生産を拡大する。

重要なのは、資本移動と経常収支の関係である。金利抵下によって資本流出圧力が高まると自国通貨が下落し、これが実物経済面では外需を増加させ、ネットでの資本流出(経常収支の改善)を生み出す。為替レートが、対外収支調整のブロセスを円滑に進める潤滑油として働くのである。

為替レートの重要性は、為替レートに変化が起こらないケースを考えると明瞭となる。為替レートが固定であっても、輪出は増加する。公的需要の減少の結果、景気が悪くなるが、景気低迷が続けば、国内物価は下落することになる。これは為替レートの水準が変わらなくても、海外から見た当該国の製品価格が安くなることを意味している(つまり実質為替レートが低下したのである)。

しかし、為替レートの下落を伴わないこの経路は非常に大きな痛みを伴う。物価が下がるほど景気が悪くなるということは、かなりの失業が生じているはずである。自国通貨を下落させることによって、不必要な経済の悪化を避けることができるのである。

この政策は、公的需要の減少を外需増加で補うことから、ディマンド・スイッチング政策とも呼ばれている。財政赤字削減だけでなく、二次的効果として経常赤字削減も達成することができる。

ディマンド・スイッチング政策を忠実に実行したのが、第一期クリントン政権である。クリントン政権発足直後から、ケース2のポリシー・ミックス「緊縮財政、金融緩和、ドル安」が実施された。クリントンが93年にホワイトハウス入りした時、為替政策がどうなるかマーケットでは読めていなかった。93年2月に政府は財政赤字割減を優先課題に置くと発表した。一方で、米国経済の競争力の回復も打ち出した。当時景気は、後退局面から緩やかに回復していた。そうした局面では、MAMによれば財政支出削減を前提とすると、デフレ圧力を相殺するために低金利政策、通貨安政策を採ればよい。

緊縮財政に続いて、ドル押し下げが始まった。フレッド・バーグステン国際経済研究所長など、政権周辺からドルのトークダウンが始まった。ベンツェン財務長官自らもドル安・円高を後押しした。財政赤字副減の計画を受けて、市場金利も急低下し始めていたので、金利面での矛盾も起こらなかった。グリーンスパン連銀議長も、財政赤字が削減されれば市場金利が低下するとの発言を行い、金利低下を促したのである。明らかに、ケース2のポリシー・ミソクスが選択されたのである。金利低下のおかげで民間投資需要は拡大し、ドル安のおかげで輪出セクターは活況を呈した。財政セクターの縮小にもかかわらず、米国経済は拡大を続けたのである。

レーガン政権の第一期目では、第一期クリントン政権とは全く反対のポリシー・ミックス「財政拡大、高金利、ドル高」(ケース3)が採用されていた。もちろん、レーガン政権は意図してこのような政策を採ったわけではない。そもそも「小さな政府」、「財政赤字削減」を目指しており、意図したところは全く反対であった。拡張的な財政政策は、効率性を追求するサプライサイドの立場からの大規模な減税策が原因であった。「所得税減税を行えば、労働のインセンティブが高まって、税収が増加する」とのラッファー・カーブの理論を採用したのである。これは亜流のサプライサイダー理論であり、決して正当派のサプライサイダー理論ではない。結果はご承知の通りである。大幅減税に加え、軍事支出の拡太から財政赤字は拡大した。

こうした拡張的な財政政策が採られた結果、国内需要は大きく増加した。これは、金利上昇を引き起こした。また、第二次オイルショック時のインフレを抑制するためにも、高金利政策が採られていた。これらの結果、アメリカ国内への資本流入圧カが高まり、ドル高を引き起こした。通貨政策はレッセフェール(自由放任政策)を採っていたため、結果的に大幅なドル高を容認する結末となった。財政赤字と経常赤字の「双子赤字」が大幅に拡大することになったのである。

当時、大統領経済諮間委員長であった正当派サプライサイダーであるマーティン・フェルドスタイン・ハーバード大教授と、そのスタッフであったポール・クルーグマンはこうしたプロセスで経常赤字が大幅拡大することをMAMに基づいて見事に予想していた。ラッファー・カーブに代表されるレーガノミクスは、非現実な魔法のような理論として、ブードー・エコノミクス(魔術経済学)として民主党から非難された。しかし、ブードー・エコノミクスの呼称は、そもそも共和党の中から出てきたものである。80年の共和党の大統領予備選で、ブッシュ候補がレーガン候補の経済政策を非難した時に、始めて使ったといわれている。ブッシュはその後レーガン政権下の副大統領を経て、大統領となる。ブッシュに代表される共和党中道派は、レーガノミクスの帰結を80年の段階で予測していたのである。


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▼ 林康史プロフィール

林 康史(はやし・やすし)

立正大学経済学部教授/法学修士。

主な担当分野

【学部】金融論、国際金融論、証券論、中国金融。

【大学院】金融特論、金融特殊研究。

 

大阪生まれ。大阪大学法学部卒。法学修士(東京大学)。クボタ、住友生命保険、大和証券投資信託、あおぞら銀行(職務経験は、輸出営業、原価管理、為替ディーラー、エコノミスト、ストラテジスト等)を経て、2005年から現職。華東師範大学(客員教授)、一橋大学(非常勤講師)、日本学生支援機構 機関保証制度検証委員会(委員長)等。その他、評論活動等。

 

主な著書・訳書
『株式投資 第4版』『基礎から学ぶデイトレード』(監訳)『マネーの公理』(監訳)以上、日経BP社、『決定版 株価・為替が読めるチャート分析』『ジム・ロジャーズ中国の時代』(共訳)『人生と投資で成功するために娘に贈る12の言葉』(監訳)『欲望と幻想のドル』(監訳)以上、日本経済新聞出版社、『欲望と幻想の市場』(訳)『相場のこころ』(訳)以上、東洋経済新報社、他。DVDに、『テクニカル分析を極める短期集中講座』(全4巻=8本)『相場で勝つための心理学』『解説!デイトレード 第1巻』『BS―JAPAN 相場の心理学(上・下)』、他。

 

現在の研究テーマ

(1)金融システム・金融法

(2)マーケットストラクチャー・価格形成メカニズム

(3)行動ファイナンス

(4)パーソナルファイナンス

(5)金融教育

(6)ドル化

(7)貨幣論・地域通貨

(8)マイクロファイナンス

(9)商品論

(10)石橋湛山

 

主な研究実績
(1)共著(木下直俊・林康史)

「“ドル化”国の中央銀行の役割と政策」全国銀行協会『金融』(第800号)2013年11月

(2)共著(林康史・木下直俊)

「ドル化政策実施国における金融政策―エクアドル・エルサルバドル・パナマの事例―」『経済学季報』(第64巻第1号)2014年7月

(3)共著(林康史・歌代哲也・木下直俊)

「エクアドル・エルサルバドルの補完通貨UDIS」『経済学季報』(第64巻第2・3号)2015年1月

(4)共著(林康史・劉振楠)

「グラミン銀行とマイクロファイナンスのコンセプト―奨学金制度のビジョン再検討のために―」『経済学季報』(第64巻第4号)2015年3月

(5)共著(畠山久志・林康史・歌代哲也)

「外国為替証拠金取引規制―わが国におけるFX取引の沿革と現状―」『経済学季報』(第65巻第1、2、3・4号)2015年8月、11月、2016年3月

(6)単著

「貨幣とは何か」『貨幣と通貨の法文化』第11章、国際書院 2016年9月

(7)共著(潘福平・林康史)

「人民元の為替相場制度の変遷」『21世紀資本主義世界のフロンティア』第5章、立正大学経済研究所研究叢書31巻 2017年3月

(8)単著

「経営とガバナンスから見た食の安全―日本・中国・韓国の比較―」『経済学季報』(第67巻第2・3号)2017年12月

(9)共著(木下直俊・林康史)

「オデブレヒト汚職事件と中南米諸国への影響」『経済学季報』(第67巻第4号)2017年3月

(10)共著(歌代哲也・林康史)「ベネズエラの共有通貨Panal」『経済学季報』(第67巻第4号)2017年3月

 

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