外国為替の相場予測

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「DVD 外国為替の相場予測」

テキストより

◆外国為替相場の変動要因

13)マサチューセッツ・アベニュー・モデ

解説 日本の経常黒字増加は円高要因か?

前述では、「2年のラグの法則」を解説し、今後日本の黒字が大幅に堵加する可能性があることを指摘した。それでば、この黒字増加が円高の要因になるのだろうか。MAMでは多くの標準的なモデル同様、為替レートと経常収支の因果閣係は、為替レートから経常収支であって、逆ではない。とすると為替レートは主に二国間の金利差によって決定される。しかし、MAMにおいても、経常収支が為替レートに影響を与える経路が全くないわけではない。周知のように、経常収支はフローとしてではなく、ストックとして為替レートに影響を与える。ストックとしての経常収支は累積経常黒字、つまり対外純資産残高を意味する。経常黒字の累計額は、日本人全体として保有しなければならない対外純資産の供給と考えることができる。毎年経常黒字が生み出されると、日本人にとっての対外純資産の供給額が増えるため、外国通貨の価格は対円で下落することになる。そして、ドルが下落することで、日本人にとって外貨建て資産が割安となり、外貨建て資産への需要が増えるのである。経常黒字は、その累計額を大きくし、日本人にとっての外貨建て資産保有へのリスク・ブレミアムを増大させるという意味で、二国間の資産収益率格差(金利差)に影響し、為替レートに影響するのである。ただ、ストックとしての影響であるため、フローの経常黒字の為替へのインパクトはそれほど大きくはない。さらに、日本のケースでは、すでに累積経常黒字が膨大な額になっているため、新たに発生する経常黒字の為替への影響は低下傾向にある。

とは言え、為替市場では、日本の経常黒字がフローとして為替に影響を与えているように見える。しかし、その経路は、経済的というよりも政治要因としてのものである。歴代の米国の政策は円高力-ドを貿易摩擦の解決策として政治的に利用してきた。日本の黒字が政治間題化すれば、アメリカが再び円高力-ドを切る可能性が高いと、マーケット参加者が考えているのである。

日本の黒字が円高要因になるためには、アメリカにおいて政治要因化しなければならない。そして、黒字が政治問題化するかどうかは、アメリカ国内の景気が良いか悪いかに大きく左右されることになる。国内景気が良好であれば、ビッグ3などの輪出企業もそれほど騒ぎたてることはないし、また、問題にしたとしても政府が同調する可能性は低い。

クリントン政権は貿易政策としてドル・レートを操作しないとしている。しかしながら、市場参加者の多くはクリントン政権の発言を信じておらず、日本の経常黒字が政治間題化し始めれば、アメリカ政府が再び円高圧力をかけると強く信じている。米国経済は現在のところ堅調に推移している。日本の黒字増加が不可避であるとしても、これが円高要困として働くかどうかは今後の米国の景気動向次第である。

・・・1997/10/1 「国際金融」掲載 

ポリシー・ミックス

MAM(マサチューセッツ・アベニユー・モデル)のフレームワークをもとに、日米の現実の通貨政策を分析する。景気過熱を避けたり、不況に入ることを避けるための政策は一般にマクロ安定化政策と呼ばれるが、MAMでは、財政政策、金融政策とともに通貨政策もマクロ安定化政策として位置づけている。財政、金融、通貨政策のそれぞれについて、景気刺激策と景気抑制策があるため、ポリシー・ミックスは単純計算すると8つある。しかし、為替レートと金融政策の相互の非独立性から、8つのうち4つは持続不可能な政策となる。つまり、通貨政策は単独で採用されるのではなく、ポリシー・ミックスの一環として実施される。

一般には、財政政策、金繊政策、通貨政策のそれぞれの政策効果は次のようなものである。

・財政支出を拡大すれば、国内需要が増加し、景気は拡大する。

・財政支出を削減させれば、国内需要が減少し、景気は減速する。

・金融引き締めを行えば、国内需要が減少し、景気は減速する。

・金融緩和を行えば、国内需要が増加し、景気は拡大する。

・自国通貨が増加すれば、純輪出は減少し、景気は減速ずる。

・自国通貨か減価すれば、純輪出は増加し、景気は拡大する。

ただし、財政支出を拡大した場合、増加した購買力の一部が海外商品に向かうため、財政支出拡大の効果は小さくなる。財政支出の拡大は国内需要を拡大させるため、実質金利を引き上げるが、これが自国通貨の増価を引き起こし、純輸出が減少するためである。もちろん、金利上昇が国内の民間投資需要を抑制するクラウディング・アウトももたらす。国際間の資本移動が完全であれば、財政支出拡大の効果はほとんど純輪出の減少によって相殺される。つまり乗数はゼロとなる。このような外需減少による財政政策の効果の減少もしくは消滅をマンデル=フレミング効果と呼ぶ。ただし、乗数がゼロになる状況は、理論上の話であって、現実の世界では実際には1以上の乗数が観測されている。財政支出削減の場合も同様である。財政による景気縮小効果も、ある程度金利低下と自国通貨下落による外需増加で相殺されることになる。

金融緩和政策を採ると、国内の投資需要が刺激されるほか、自国通貨に下落圧力がかかり、外需が拡大するので、景気拡大効果は大きくなる。金融政策は、財政政策とは反対に、開放経済で効果が大きくなる。金融引き締め政策の効果も閉鎖経済に比べると同様に拡大する。

財政政策の効果縮小、金融政策の効果増大は、変動相場制下における特徴である。反対に、固定相場制においては財政政策の効果は増大し、金融政策の効果は縮小する。

1970年代以降、財政政策の乗数効果が低下した。多くのエコノミストは経済構造の変化を指摘している。しかし、それ以上に1971年のブレトウン・ウッズ体制の事実上の崩壊とその後の変勤相場制への移行と、1970年代後半から80年代にかけての先進国の資本の自由化が、財政政策の乗数効果を低下させたのである。


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▼ 林康史プロフィール

林 康史(はやし・やすし)

立正大学経済学部教授/法学修士。

主な担当分野

【学部】金融論、国際金融論、証券論、中国金融。

【大学院】金融特論、金融特殊研究。

 

大阪生まれ。大阪大学法学部卒。法学修士(東京大学)。クボタ、住友生命保険、大和証券投資信託、あおぞら銀行(職務経験は、輸出営業、原価管理、為替ディーラー、エコノミスト、ストラテジスト等)を経て、2005年から現職。華東師範大学(客員教授)、一橋大学(非常勤講師)、日本学生支援機構 機関保証制度検証委員会(委員長)等。その他、評論活動等。

 

主な著書・訳書
『株式投資 第4版』『基礎から学ぶデイトレード』(監訳)『マネーの公理』(監訳)以上、日経BP社、『決定版 株価・為替が読めるチャート分析』『ジム・ロジャーズ中国の時代』(共訳)『人生と投資で成功するために娘に贈る12の言葉』(監訳)『欲望と幻想のドル』(監訳)以上、日本経済新聞出版社、『欲望と幻想の市場』(訳)『相場のこころ』(訳)以上、東洋経済新報社、他。DVDに、『テクニカル分析を極める短期集中講座』(全4巻=8本)『相場で勝つための心理学』『解説!デイトレード 第1巻』『BS―JAPAN 相場の心理学(上・下)』、他。

 

現在の研究テーマ

(1)金融システム・金融法

(2)マーケットストラクチャー・価格形成メカニズム

(3)行動ファイナンス

(4)パーソナルファイナンス

(5)金融教育

(6)ドル化

(7)貨幣論・地域通貨

(8)マイクロファイナンス

(9)商品論

(10)石橋湛山

 

主な研究実績
(1)共著(木下直俊・林康史)

「“ドル化”国の中央銀行の役割と政策」全国銀行協会『金融』(第800号)2013年11月

(2)共著(林康史・木下直俊)

「ドル化政策実施国における金融政策―エクアドル・エルサルバドル・パナマの事例―」『経済学季報』(第64巻第1号)2014年7月

(3)共著(林康史・歌代哲也・木下直俊)

「エクアドル・エルサルバドルの補完通貨UDIS」『経済学季報』(第64巻第2・3号)2015年1月

(4)共著(林康史・劉振楠)

「グラミン銀行とマイクロファイナンスのコンセプト―奨学金制度のビジョン再検討のために―」『経済学季報』(第64巻第4号)2015年3月

(5)共著(畠山久志・林康史・歌代哲也)

「外国為替証拠金取引規制―わが国におけるFX取引の沿革と現状―」『経済学季報』(第65巻第1、2、3・4号)2015年8月、11月、2016年3月

(6)単著

「貨幣とは何か」『貨幣と通貨の法文化』第11章、国際書院 2016年9月

(7)共著(潘福平・林康史)

「人民元の為替相場制度の変遷」『21世紀資本主義世界のフロンティア』第5章、立正大学経済研究所研究叢書31巻 2017年3月

(8)単著

「経営とガバナンスから見た食の安全―日本・中国・韓国の比較―」『経済学季報』(第67巻第2・3号)2017年12月

(9)共著(木下直俊・林康史)

「オデブレヒト汚職事件と中南米諸国への影響」『経済学季報』(第67巻第4号)2017年3月

(10)共著(歌代哲也・林康史)「ベネズエラの共有通貨Panal」『経済学季報』(第67巻第4号)2017年3月

 

所属学会

日本金融学会、金融法学会、法と経済学会、法文化学会、行動経済学会、FP学会