外国為替の相場予測

NO.09

「DVD 外国為替の相場予測」

テキストより

◆外国為替相場の変動要因

13)マサチューセッツ・アベニュー・モデル

マサチユーセッツ・アペニュー・モデルに関する議論

この標準モデルの解説にある程度紙幅を割いたのは、三つの理由がある。第一に、このマサチューセッツ・アベニュー・モデルが国際収支調整の多くの議論において根底をなす基本モデルどなっているからである。もっとも、このモデルが国際収支調整の基本モデルであることは知られていない。というのも、経済学者は、政策立案者に話す時は過度に形式ばるのを嫌うし、経済学者同士が話す時はアド・ホックなモデルにこだわることを嫌うからである(IS・LM型モデルは、ミクロ経済学的な基礎付けが明確に示されていないため、その有用性にもかかわらず、経済学者の間ではアド・ホックな印象があるということをクルーグマンは指摘していると思われる)。これによって多くの混乱が起きている。話し手も聞き手も国際経済の専門家いう会議ですら、参加者の半分が残り半分の話を理解できず、まるで音楽でも聞いているような顔をしているという状況が見られる。

基本モデルを取り上げた第二の理由は、為替レートの役割を重視している国際経済学者に対する一般的な非難の風潮を払拭するためである。特に為替レートがどのように貿易に影響を与えるかを研究しているエコノミストは、部分均衡の観点で考えているとよく非難される。つまり、基本的な会計恒等式(ISバランス論)を理解していないとか、為替レートの何らかの変化は他の要素も変化させるという点を忘れている、と非難されるのである。だが、マサチューセッツ・アベニュー・モデルは実際には基本恒等式を踏襲している。総生産が総需要に等しいという方程式は、S-I=NXあるいはNX=Y-A(Sは総貯蓄、Iは投資、NXは純輸出、Yは所得、Aは内需)というようにも書き換えられる。

また、モデルは為替レート以外の要因の変化が貿易収支に影響を与えることも明確に認めている。財政支出の拡大は実質為替レートだけでなく生産も上昇させる。金融緩和は、実質為替レートの切り下げを招くが、原理的に純輪出に与える影響は不明確である。主流派の国際経済学者が国際収支調整について議論する時は緊縮的な財政政策がとられると同時に、その影響を相殺するような金融緩和策の実施と為替レートの切り下げが暗黙のうちに想定され、そこでは国内総生産がほとんど変化しないというシナリオが描かれている。主流派である標準的見解を解説する最大の理由は、別の学派を検証するときに有益であるという点にある。標準学説へ反論する学派の見解は、ドル切り下げの必要性に関してマサチューセッツ・アベニュー・のような主流派の主張とは異なるものである。主流派のドル切り下げに関する主張は次のようなものである。

■財政引き締めと金融緩和というポリシー・ミックスは、景気拡大を招くことなく実質ベースのドルを引き下げ、米国の経常赤字削減を成功させる。

■このようなポリシー・ミックスに関連した実質ベースのドル切り下げは、赤字削減を達成するときに、少なくとも景気後退のような望ましくない結果を避けるために必要である。

■どこまで切り下げる必要があるかは、ある程度予測しうるものである。それは、貿易収支と実質為替レートの間に安定的な関係があるからである。

標準的な学説に反対する三つの有力な学派があるか、それらはここにあげた標準的な学説の三つの主張のうち、どれかを否定している。

一つ目は、通貨切り下げは純輸出の堵加につながる効果があるのだろうか、単一に海外投資家に対して米国の資産を安売りしているだけではないのか、と言った見方である。こうした為替レート調整は機能しないとする見方を構造重視派と呼ぶ。

2つ目は、経常収支の調整過程で通貨切り下げは必要だろうか、貯書投資バランスの変化によって経常収支の調整が引き起こされるのであれば、通貨切り下げは関係ないのではないか、といった見方。為替レート調整は必要ないとする見方をシュモーイストと呼ぶ(シュモーとは、アル・カップ作の漫画の中で人が食べたいと思った物に姿を変えてくれる生き物。経済理論の中で、資本財、消費財のどちらにも都合のいいように利用できるような財のことを潮笑的に呼んだもの)。

3つ目は、適正な為替レートを予測できるのだろうか、米国の競争力が低下してドルの切り下げが必要であるため、適正な為替レートというものは存在せず、為替レートのターゲットはどんどん下落していくことになるのではないか、といった見方である。為替レート調整は競争力問題の正しい対応ではないとする見方をセキュラリスト(均衡的なドル水準が永久(=セキュラー)に下がり続けることを想定する学者の呼称)と呼ぶ。

以上がクルーグマンによるMAMの説明である。MAMに反対する三つの学派である構造量視派、シュモーイスト、セキュラリストの考え方については次回に紹介することとし、ここでは2年のラグについての補足説明を加えておきたい。


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▼ 林康史プロフィール

林 康史(はやし・やすし)

立正大学経済学部教授/法学修士。

主な担当分野

【学部】金融論、国際金融論、証券論、中国金融。

【大学院】金融特論、金融特殊研究。

 

大阪生まれ。大阪大学法学部卒。法学修士(東京大学)。クボタ、住友生命保険、大和証券投資信託、あおぞら銀行(職務経験は、輸出営業、原価管理、為替ディーラー、エコノミスト、ストラテジスト等)を経て、2005年から現職。華東師範大学(客員教授)、一橋大学(非常勤講師)、日本学生支援機構 機関保証制度検証委員会(委員長)等。その他、評論活動等。

 

主な著書・訳書
『株式投資 第4版』『基礎から学ぶデイトレード』(監訳)『マネーの公理』(監訳)以上、日経BP社、『決定版 株価・為替が読めるチャート分析』『ジム・ロジャーズ中国の時代』(共訳)『人生と投資で成功するために娘に贈る12の言葉』(監訳)『欲望と幻想のドル』(監訳)以上、日本経済新聞出版社、『欲望と幻想の市場』(訳)『相場のこころ』(訳)以上、東洋経済新報社、他。DVDに、『テクニカル分析を極める短期集中講座』(全4巻=8本)『相場で勝つための心理学』『解説!デイトレード 第1巻』『BS―JAPAN 相場の心理学(上・下)』、他。

 

現在の研究テーマ

(1)金融システム・金融法

(2)マーケットストラクチャー・価格形成メカニズム

(3)行動ファイナンス

(4)パーソナルファイナンス

(5)金融教育

(6)ドル化

(7)貨幣論・地域通貨

(8)マイクロファイナンス

(9)商品論

(10)石橋湛山

 

主な研究実績
(1)共著(木下直俊・林康史)

「“ドル化”国の中央銀行の役割と政策」全国銀行協会『金融』(第800号)2013年11月

(2)共著(林康史・木下直俊)

「ドル化政策実施国における金融政策―エクアドル・エルサルバドル・パナマの事例―」『経済学季報』(第64巻第1号)2014年7月

(3)共著(林康史・歌代哲也・木下直俊)

「エクアドル・エルサルバドルの補完通貨UDIS」『経済学季報』(第64巻第2・3号)2015年1月

(4)共著(林康史・劉振楠)

「グラミン銀行とマイクロファイナンスのコンセプト―奨学金制度のビジョン再検討のために―」『経済学季報』(第64巻第4号)2015年3月

(5)共著(畠山久志・林康史・歌代哲也)

「外国為替証拠金取引規制―わが国におけるFX取引の沿革と現状―」『経済学季報』(第65巻第1、2、3・4号)2015年8月、11月、2016年3月

(6)単著

「貨幣とは何か」『貨幣と通貨の法文化』第11章、国際書院 2016年9月

(7)共著(潘福平・林康史)

「人民元の為替相場制度の変遷」『21世紀資本主義世界のフロンティア』第5章、立正大学経済研究所研究叢書31巻 2017年3月

(8)単著

「経営とガバナンスから見た食の安全―日本・中国・韓国の比較―」『経済学季報』(第67巻第2・3号)2017年12月

(9)共著(木下直俊・林康史)

「オデブレヒト汚職事件と中南米諸国への影響」『経済学季報』(第67巻第4号)2017年3月

(10)共著(歌代哲也・林康史)「ベネズエラの共有通貨Panal」『経済学季報』(第67巻第4号)2017年3月

 

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