値幅観測法

トム・デ・マークの手法

短期トレーダーにとって値幅観測法は必要か

値幅観測、すなわちレンジをトレードの前に決めておくことは短期トレーダーにとって必要だろうか。ラリー・ウィリアムズは否定的である。“GET REAL”、ラリー・ウィリアムズが頻繁に使う言葉である。現実を見よう、夢を見るなーということである。つまり、相場そのものを見て、建玉はそれについていくしかないのだ、ということである。マーケットに儲けも値幅も決めさせればよい。

たとえば、100が200になる相場あったとして、フィボナッチ級数を根拠に(1.618倍)168で利食ったとしよう。そのあと、相場が200に急騰したとき、ああ、2倍があった、となる。この場合、このトレーダーにとって値幅観測は何の意味もない。この場合、値幅は邪魔になった。

また、タートルズやリンダ・ブラットフォード・ラシュキ、ローレンス・コナーズも否定的だ。利益はマーケットが決定し、それに従う。従えない場合はストップを使う。これは、非常に潔い方法であり、また実践的である。また、なるべく相場にいるときはシンプルにしたいのである。

自己資金でトレードするときには、基本的に価格ターゲットを設定しない。多くの優秀な短期トレーダーがそうであるように、あなたが短期パターンとマネーマネージメントに徹するならば、この項は読む必要がない。

一方、以下のトレーダーにとっては必要となるケースがある。

① 建玉が多く、ポジションメイク・手仕舞い共に十分な流動性を必要とする場合
② その値動きに一定のパターンが見いだせる相場に集中している場合

① について。たとえば、ヘッジファンドや機関投資家を想定すればよい。大量の建玉をある程度良いコストで作るには、マーケットが一時的にせよ弱気の時買うことが必要である。その際、リトレースメントの幅を知ることは大切である。無論、トレンドの継続を考えて買い向かうわけであるから、ある価格水準のブレイクアウトは、リトレースメントがリトレースメントではなく、新しいトレンドの発生であるリスクがある。あらゆる市場参加者にとって価格は平等であるから、大口にとってもある程度トレンド転換のリスクは想定せざるを得ないのである。

また、大量の建玉を持って利食いを行う場合も「戻り」を待って行うしかない。建玉の多いトレーダーにとっては下落局面で押し目買いをするトレーダーでは不十分なのである。トレンドが下落であっても、2-3日の戻りを見て、トレンドが変わったごとく考えてしまう参加者が必要だ。

② についていえば、一定のパターン・リズムを繰り返す傾向のある相場は、値幅も一定である可能性がある。相場をある程度観察しておく必要があり、決めうちは危険である。

プロとして相場に参加していく場合、いつかは「流動性」の問題に直面せざるを得ない。つまり、相場で十分な流動性が無いために、利益が大幅に減少してしまうことがあるのだ。その場合、建玉をなるべく痛めずに手仕舞ったり、比較的良いコストで大量の建玉を作るときこの項は必要となるだろう。


トム・デマークの値幅観測法

TDダブルレンジ/ TD DIFF / TD トレンド・ファクター/ フィボナッチ級数と価格水準の突破 / マグネット・プライス

TDダブルレンジ

計算式・トレードタイミング

異常な値動きは時に「前日値幅の倍をとる」という観測・手仕舞い法。

Aのバーの値幅が50銭とすると、Bの日のポジションメイクは、「Aの値幅をAの終値から2倍」下げた(50銭X2=100銭)が価格的に安全な買いゾーンである。もし、Aの終値が100円とした場合、図では100-(0.50X2)=99円となる。

要するに当日の値幅に対する売買は前日の値幅を倍して終値から加減すれば良い。トレンドによっては値幅が3倍になったり、2倍に満たないケースもあろう。

高値は19187、安値は18937である。値幅は250円であり、その倍は500円である。終値は19002円。TDダブルレンジの価格は19002-500=18502となる。

bの安値は18221であるが、終値は18542である。bはaに対するTD TRAPであるから、短期トレーダーとしてはaの安値(18937)で建玉し、大引けないしは翌日の寄付手仕舞いが原則であるものの、TDダブルレンジを知っていれば、18502円以下で買い戻しが可能であっただろう。

最も、大きな反転ではその幅はさらに大きくなってしまう。Cのバーに対してはdの値幅はTDダブルレンジの目標18627を大きく上回る高値18887終値18850である。この場合、ラリー・ウィリアムズの手仕舞い法がベターであり、トム・デマークの手仕舞いは失敗といえる。

また、この観察法はレンジ相場では使えないテクニックであり、ボラタイルなマーケットを必要とする方法であることに留意したい。終値や始値近辺で手仕舞いが出来るサイズであれば、あえてこの方法は使う必要はない。サイズが大きかった場合はダブルレンジで半分手仕舞い、終値で半分手仕舞うという方法も考えられる。


TD DIFF

計算式・トレードタイミング

DIFFはディファレンシャルの略称。下降局面における短期的トレンドの転換、上昇局面での短期的下落を予測するテクニックである。まず2日終値が連続して「下がる」または「上がる」必要がある。2日連続の確定のためには3日分のバーが必要である。

aの終値は前日より低く、bの終値もaより低い。これで、TDディフのセットアップが完了である。

比較はaの「終値と安値の差」とbの「終値と安値の差」で行う。

さてaのバーにおける買い圧力とは何か。それはaの安値からaの終値の間と考える。つまり「利食い」と「損切り」、あたらな「空売り」で高値から安値、安値から終値まで到達するのが、典型的な下げ相場であれば、一日の最終的な買い圧力は安値から終値まで引き上げたものである、と考える(逆に始値時点での売買圧力は始値から高値、始値から安値の間となる)。

たとえば、aの日における買い圧力が50銭とする。bの日の買い圧力(当然場がしまってからの計算となるが)―すなわち、終値から安値を引いた絶対額―が、aの日を上回った場合、次の日に短期トレンドが転換する確率が高く、従ってbの日の安値から終値の間は「安全買いゾーン」となる。

逆に、bの日の終値がaの日の安値から高値の差以上戻せなかった場合は、トレンドの継続と考える。

<上昇転換>

(a終値―安値)<(b終値-安値)  

TD DIFF成立

(アップサイド・リバーサル)

(a終値―安値)>(b終値-安値)  

下降トレンド再開

 

<下落転換>

(a高値―終値)<(b高値-終値)  

TD DIFF成立。

(ダウンサイド・リバーサル)

(a高値―終値)>(b高値―終値)  

上昇トレンド再開

<東京銀先物、1999年12月の状況>

11月最終日の終値に対して、aは低く、またbも低い。これで、TD DIFFの最小セットアップ完了である。aの安値から終値の幅をみると20銭である。bの安値から終値の間は50銭であるから、TD DIFF成立である。ところが、cの日は寄付からギャップを開けて下落、短期パターンはなにも成立しなかった。

続いて、b、cのバーを比較する。bの戻りは50銭であった。cの戻りは20銭にすぎない。トレンド継続の可能性が高い。dでTD TRAPを形成、cの安値である163.30でショートメイクとなるが、c、dのバーで考えると、dのバーの戻りは50銭である。

TD DIFFが完成しており、上昇リスクが高い。このような日は終値近辺で手仕舞わないと、銀のような国際市場は手遅れになる。eのギャップ・オープンがその証左であろう

さて、eに対してf、gと連続して終値が下がっている。但し、fに対してgの戻りは半分程度。hはトレンド継続と考える。ところが、hはTD TRAPを成立させた後、寄付を上回って引けている。このケースでは短期トレーダーは1円程度のロスを被った可能性が高い。なお、gは失敗したIDのブレイクアウトともいえ、少なくとも数日は反対サイドのトレードが行われる可能性が高い。タートルズのP/Lトレードのミニチュア版とでも考えて良いだろう。つまり、下降サイドブレイクを信じたポジションがロスカットさせられるまで上昇するわけである。

 

日本の商品や株式、ドル円為替に関して言えば、思ったほど有効とは思われない。

ユーロや欧州通貨では特にTD ダブルレンジが有効である。

短期の値幅観測としてはワイルダーのピボットポイントや単純なメジャード・ムーヴ、フィボナッチリトレースメントやギャンのリトレースメントを使った方が有効である。


TD トレンド・ファクター

計算式・トレードタイミング

中期リトレースメントの観測法。

この観測法は、商品や為替に適用し、株式には適用。観測する値幅が小さすぎて実践的ではない。むしろトム・デマークがヘッジファンドで為替や債券、商品を主に観測してきたために過去の技法では不十分であった相場観測法を編み出した。

<条件>リトレースメントを計測する条件として、最低でも5.56%以上の値動きがあったこと。イントラディ・ベースの最高値から最安値でよい。終値同士が5.56%を満たさなくても良い。

99年1月12日の安値は、108円67銭であるから、108円67銭×1.0556=114円60銭以上の高値があれば、リトレースメントの条件に合致する。

aは3月5日高値であるが、123円55銭であるから条件に合致する。予測される安値は123.55×0.9444=116.68であるが、安値は3月19日の116.90であった。ほぼ完璧なリトレースメントの計算である。さらに5月20日の高値(ワールドワイドで99年の最高値となった)は、124円74銭である。

124.74×0.9444=117.81

6月10日ザラバで抜けているが、終値では118円31銭まで戻した。

トム・デマークの定義するサポート・レジスタンスレベルのブレイクアウトは、終値で突破かつ翌日の始値で突破であるから、6月の下げは反転である。

一方、7月23日は117円7銭で引け、翌7月26日も116円85銭で始まっている。サポートブレイクの完成である。次の価格目標は、124.75×0.8919=111.26である。

eにおける111.26の攻防をご覧いただきたい。終値で突破しても、翌日の寄付が上回ったりして、結局確認できたのは、急落の直前となった。ずいぶん効率の良いディールといえる。

フィボナッチ級数と価格水準の突破

計算式・トレードタイミング

値幅観測法の最も代表的なものは、フィボナッチ級数を利用するリトレースメント。

1 波動のリトレースメント

2 絶対水準そのもののリトレースメント

100のものが、200になったと仮定する。この上昇波動は100である。フィボナッチ級数からは、0.618,0.382が導き出されるから、戻りは162.8(200-100X0.382)ないしは138.2(200-100X0.618)になりやすい、ということである。

ギャン的なリトレースメントでは1/2,3/8,5/8となるが、フィボナッチ級数も、半値戻しに対して上下に0.118のフィルターをかけただけと見なすこともできる(0.5+.118=0.618,0.5-.118=.382)し、フィボナッチ級数は1+1=2と50%水準も含むので実質一緒とみなすこともできる。

今ひとつのリトレースメントは価格そのもの、すなわち高値そのもの、安値そのものを1.382,1.618ないしは0.382,0.618倍することによって求めるものだ。もちろん、こちらの方がスケールが大きくなるので株式相場や長期の商品分析に向いている。

この辺のリトレースメントに関する考え方は類書も多く、多く本書で割く必要は無かろう。トム・デマークのリトレースメントの考え方も基本的には同じであるが、デマークが独創的なのは、リトレースメントレベルの突破に条件を付けていることと、全値戻しの価格水準をエクストリーム(極値、すなわち高値であったらザラバの最高値、安値であったらザラバの最安値)におかず、終値においていることであろう。

 

リトレースメント突破の条件は

(ア) 終値で突破

(イ) 翌日の始値で突破(連続)

(ア) と(イ)が同時に成立していなければならない。TDトレンドファクターの突破の条件と同じ。

 

<東京金1999年9月から2000年1月の状況>

高値・安値を予測するのではなく、あくまでも建玉(ポジション)をうまく操作するという観点から見ていく。すなわち、サポート水準のブレイクを売り、サポート水準の反転を買うのである。短期トレーダーはあくまで短期チャートパターンに従うのを原則とする。

安値は9月16日の836(終値840がマグネットプライス)である。高値は10月7日の1101。波動の大きさは1101-836=265である。

リトレースメント水準は

1101-265X0.382=1000

1101-265X0.618=937

0.382すなわち1000レベルでの攻防ではかなり良いトレードが出来ている。すなわち、終値の突破、翌日寄付の突破で2日間で60円以上の値幅である。価格は937を突破して、950以上で引けた。すなわち、0.618戻しの失敗である。

しかしその後も0.382水準である1000円に到達できず、レンジが収縮し下方ブレイクとなった(なお、この間の相場にTDスプリング{13日と5日レンジを比較したブレイクアウト}が応用できている点にも注意されたい)。0.618水準の突破前後でのディールは苦戦せざるを得ない。

最初の突破では殆ど安値近辺の取引で、終値手仕舞い乃至はベイルアウトしか利食えない。また最初の0.618突破では終値+オープン価格突破の水準は手数料を考えたら、ベイルアウトでは若干のロス、終値手仕舞いで何とかトントンというとこであろう。

だが2回続けての儲けにならないトレードの後は、経験則通り確実に儲かるトレードが待っている。0.618の2度目の上方ブレイクアウトは短期トレーダーにとって効率的なものとなった。


マグネット・プライス

計算式・トレードタイミング

マグネットプライスとは、端的に言ってしまえば極値を形成した日の終値。

リトレースメントを計算する前にトム・デマークは一連の作業を行う。上昇のリトレースメントには2つの底を、下降のリトレースメントには2つの天井を観察するのである。そしてその中間にある極値、これがマグネット・プライスなのである(磁石に吸い付けられるように止まる価格という意味)。

上昇のリトレースメントとしては、a-b-cがあればよい。また、下降のリトレースメントのためにはb-c-dがあればよいのである。そして、a-b-cのパターンは、上昇の戻りを見るのであるから、bの終値がマグネットプライス(またはTDクルーシャル・プライス)、b-c-dのパターンは下降のリトレースメントを見るので、cの終値がマグネットプライスである。

チャート上の極値は11月17日の328万円である。終値は355万。チャートでご覧いただければよく判ることであるが、328万で買おうとすれば、決して買うことは出来なかった。328万円のブレイクも結局起こらなかった(終値+翌日の寄付条件を満たしていない)。

一方、bのマグネットプライスは低すぎて実用に耐えない。このようなケース(WS7かつ終値がレンジの半分以下)は、マグネットプライスとして利用すべきではないであろう。むしろ、「スペシャリストの罠」ないしは「タートル・スープ」の形成を見ておくべきである。一方、dのマグネット・プライスは将来にわたって重要なポイントとなる可能性が高い。


上記掲載内容はプレミアムMAX 金融レポートで連載した「新トレーディング手法解説バージョン(2012年9/17号~2018年1/30号)」から抜粋、テーマ別にわかりやすく編集しています。