レンジ収縮とブレイクアウト

1)トビー・クラベル

オープニングレンジ・ブレイクアウト(ORB)

ID/NR4

NR7

フック・ディ

WS4/WS7

トビー・クラベルとジョージ・ダグラス・テイラーを極めて重要な短期トレードの先駆者。トビー・クラベルの“day trading with short term price pattern & opening range breakout”は少なくとも世界的には短期トレーダー必携の書として有名であった。

ラリー・ウィリアムズの手法の多くはトビー・クラベルのアイデアに啓発されたものである可能性が高い。同時進行的に別々の場所で同じアイデアを思いついた、ないしはトビー・クラベルの方がラリー・ウィリアムズに啓発されたと見ることも不可能ではないが、少なくとも書籍の出た順番で言えば、トビー・クラベルが先である。

 

以下、トビー・クラベルの開発した重要なトレードの概念を見ていく。

トビー・クラベルの最大の功績はなんといっても「レンジ収縮・拡張」の概念とそれに基づくトレード法であろう。ほとんどのトレーダーがマーケットのレンジ収縮・拡大を意識したことがあると思われる。また、短期トレーダーにとっては、レンジ幅の拡大・縮小が重要なタイミング・ツールとなっていたのも、ほぼ間違いのないところであろう。しかしながら、ほとんどのトレーダーにとっては、タイミング・ツールとしても経験則的かつ、直感的な部分であったことも事実であろう。

レンジの縮小を重要なブレイクアウトの前兆とする参加者は確かに多かったが、そのレンジ縮小に関する受け止め方、感じ方というものはあくまでも参加者個々のものであり、法則化されたり、ルール化されたりするものではなかったため、同じマーケット参加者間でも「勘」「職人芸」的な世界にとどまっていた。

ラリー・ウィリアムズも、レンジの収縮―すなわち「大きなレンジの日、小さなレンジの日」が交代に起こることそれ自身が「サイクル」なのだという過激な持論を持っているが、その「小さなレンジ」は視覚的・感覚的なものにすぎない。それと比較すると、トビー・クラベルのレンジの定義は遙かに実用に耐える実践的なものである。

オープニングレンジ・ブレイクアウト(ORB)

計算式・トレードタイミング

ブレイクアウト・モード、あるいはトレンドの発生というものは、レンジの収縮がきっかけとなって起こる。したがって、あらゆるトレーダーにとって最も重要なのはレンジ収縮を発見することである。

この発想はラリー・ウィリアムズの持論であるが、トビー・クラベルこそ、この発見者と見なすべきかもしれない。ORB戦略は、まさにレンジ収縮という相場観察を始めることによって、容易に値幅拡大―すなわち、ブレイクアウトについていこうとする戦略に他ならないのであるから。

トビー・クラベルは最初に、短期トレーダーにとって寄付が非常に重要と定義している。これは、伝統的に短期トレンド重視・寄付重視・先物重視であった日本人から見れば何の違和感もないが、ダウ理論の昔から終値重視・中期トレンド重視・現物重視であった欧米人から見れば、コペルニクス的転換であったろうと推察する。

ラリー・ウィリアムズも同様の結論に達したわけであるが、これがトビー・クラベルの独創なのか、もともとはラリー・ウィリアムズの発見なのかは判然としない。もっとも、先物を長年トレードすれば、寄付と引け間際の価格変動の集中は避けられない事態なのであり、ある意味寄付重視になるのは必然ともいえる。

トビー・クラベルのいう「オープニング・レンジ」とは寄付後30秒の値動きを指す。ほとんど、寄った直後のオープニング・プライスといえるかもしれない。

それでは、なぜ30秒という時間指定をしたのか、今ひとつ判然としないものの寄り付いた直後から値幅が飛ぶこともあるから、その辺を意識した可能性がある。いずれにせよ、トビー・クラベルにとって、一日の時間割は極めて繊細且つ細分化されている。

次に理解が必要な概念は「ストレッチ」である。ストレッチとは過去10日間の寄付と直近のエクストリーム(注-1)との差を計算してその平均を出す手法である。

注-1)エクストリームはラリー・ウィリアムズのマーケット・ストラクチャー・リバーサル・ポイントと同義。トビー・クラベルはエクストリームの安値/高値にはピボット・ボトム/トップという言い方をしている。

ORB戦略は寄付後30秒のレンジ上限にストレッチ幅である0.59を足し、その上にバイストップ、またレンジ下限から0.59を引いたところにセルストップを置く。

どちらかが、トレーディングストップ(ポジション作成のためのエントリー)となり、その反対はプロテクティブ・ストップ(いわゆるストップロス)となる。

トビー・クラベルはオープニング・レンジ後のマーケット、特にその30分以内に上下どちらのストレッチ幅にマーケットが動いていくか、観察するのが特に重要としている。

オープン後の1時間で動くレンジ幅が、その後の2-3時間を決定するという。


ORBはこのままでは単なる放れにつく方法に大差なく、危険性が高い。従って、トビー・クラベルはこのオープニングレンジ・ブレイクアウト戦略を使用するに当たって、重要なフィルターをかけている。それが、レンジ収縮に着眼したID/NR4、NR7とギャップ・オープンを利用したフック・ディの概念である。

ID/NR4

計算式・トレードタイミング

リンダ・ブラットフォード・ラシュキならびにローレンス・コナーズによって復活したトビー・クラベルの概念、その中でももっとも信頼性の高いものーと評価されているパターン。

IDとはインサイド・ディのことである。IDはローソク足の孕み(はらみ)ではない。

NR4とは、ナローレンジ4との意味である。NR4は4日間で一番縮小されたレンジをさす。従って、ID/NR4とはその日を含む4日間で一番レンジが小さく、かつインサイド・ディであることを示す。このようなレンジ収縮が、重要なトレンドの「スプリングボード」-すなわち、発射台の役割を果たすのである。

<孕み(はらみ)足>

レンジのみならず、実体(寄付-終値)が前日の実体より小さくなければならない。

<インサイド・ディ>

レンジが前日のレンジに収まっていれば、たとえ実体が孕んでいなくてもインサイド・ディである。


NR7

計算式・トレードタイミング

NR7は、対象日を含む7日間の内でもっとも小さいレンジを指す。この場合、IDを伴う必要は必ずしも無い(むろん、IDを伴えば更に強力とはいえるが)。

その意味でNR7は、新値を切っていくときにも発生する可能性がある。NR7はリンダ・ブラットフォード・ラシュキの言を待たずとも、トレンドが発生する直前を意味する強力な観察法である。


フック・ディ

計算式・トレードタイミング

極めてラリー・ウィリアムズのOOPSシグナルに近いが、使用法は逆である。

前日の安値を下回る寄付

<ベア・フック・ディ> ブル・フック・ディはこの逆

*寄付は前日の安値に対してギャップ・オープン。

*終値は、前日の終値を超える。

*レンジは前日のレンジより収縮する。

*翌日寄付(○でくくった日)からORB戦略をとる。

前日のフォーメーション自体は、ラリー・ウィリアムズのOOPSに近い。ただ、レンジ収縮の条件が付くことと、最終的なポジションの方向が逆なのである。つまり、ベア・フック・ディでは、前日のレンジに戻したものの、そのモメンタムの小ささが逆にトレンドの継続を意味するとし、基本的には下落へのORBを取るのである。

この方法については、トビー・クラベルもあまり確信がなかったらしく、フックもORB戦略のセットアップを形成するとはしつつも、ID/NR4およびNR7に比べトレンド発生のシグナルとしては劣る、と述べている。

またフック・ディ自身の相対的信頼度においても、「ベア・フック・ディに比べ、ブル・フック・ディの信頼度は低い」と述べている。

OOPSの逆になるということもあってか、フック・ディに関する信頼感はほとんど持っていない。ローレンス・コナーズやリンダ・ブラットフォード・ラシュキも同意見であったらしく、フック・ディに関する研究は進められているとはいえないようだ。


WS4/WS7

計算式・トレードタイミング

WS4は、過去3日間と比較してもっとも大きいレンジが形成された日、WS7は過去6日間と比べもっともレンジが大きい日である。

いずれも、どのレベルに発生してもかまわないし(たとえばアウトサイドディである必要はない)、終値の位置も関係しない。リンダ・ブラットフォード・ラシュキのWR4、WR7は全く同じ定義であり(というよりトビー・クラベルの考えをほぼ踏襲したものであろう)、定義の仕方は若干変わってくるが、ラリー・ウィリアムズのラージ・レンジ・ディ、シュワッガーのワイド・レンジング・ディもほぼ似た考えであろう。

リンダ・ブラットフォード・ラシュキ/ローレンス・コナーズやラリー・ウィリアムズの本をお読みの方はすでに何の違和感もない概念であろうが、現代の短期フォーメーション分析の結果から長大線は短期トレーダーにとって逆バリの方が有効と見なされている。

この考え方は伝統的なテクニカル分析からみればかなり革命的発想である。

というのは通常トラディショナルなテクニカルでは長大線はトレンド継続ないしは重要な反転を意味し、基本的には「長大線につく」ポジションを取るのが有利かつ結果的に安全と見なされてきたからである。

トビー・クラベルは、ID/NR4およびNR7を重要なORB戦略のトリガーとしてきた。しかしORB戦略が極端に勝率の下がる危険かつ注意を要するパターンとして、WS4/WS7を挙げている。

特に、WS7の勝率はおおむねNR7のそれから10%以上下がってしまう。もともとID/NR4やNR7の勝率も60-75%の間であるから、10%強の勝率ダウンはそのまま勝率50%-すなわちランダムな世界への突入に他ならない。更に、累積損益がNR4/NR7と比較して、ほぼ7分の1まで低下してしまう、とトビー・クラベルは指摘し、「WS4/WS7は短期トレーダーによって、ブレイクアウトの消滅を意味する可能性がある」とまで述べている。

この発想を更に押し進めたのがムーアリサーチセンターで、終値の位置とかみ合わせて、リサーチの結果を出している。つまり終値の位置によっては、WS7はむしろ、逆バリの指標になりうる、ということである。したがって、WS7は少なくとも、短期トレーダーにとってORBないしトレンドトレーディング戦略を採用するのは無謀であり、終値の位置次第では80-20s等の反トレンド戦略をとる好機にもなると考えた方がいい。


上記掲載内容はプレミアムMAX 金融レポートで連載した「新トレーディング手法解説バージョン(2012年9/17号~2018年1/30号)」から抜粋、テーマ別にわかりやすく編集しています。